働き方改革は「やめる」が最重要

働き方改革の本質は「生産性改革」ですが、中小企業でこれができるのは経営者しかいません。
なぜなら、働き方改革では「やめる」がもっとも大切だからです。

最近、年休の5日付与義務や、労働時間の上限規制など、労働時間を短くして、休みを多くすることばかりが強調されています。
しかし、働き方改革が本当に目指すところは、これまでと同じかそれ以上の成果を出しながら、労働時間を減らすことです。
もちろん多くの企業では、これまでも無意味に長時間労働をしてきたわけではありません。
「ちゃんとやるべきことがあったから結果的に長時間労働になっていたのだ。それをいきなり労働時間だけ減らせといわれてできるわけないだろ」と主張する経営者も多いです。

しかし、その「やるべきこと」が、本当にそうなのかを再考し、「やめられないか」を検討するのが働き方改革の第一歩だと考えます。

どの企業にも、これまで長年続けてきて顧客が満足しているようだが儲けにつながっていないサービスがあるかと思います。それも、やめてみるとそれほど問題ないケースは意外と多くあります。
それに費やしていた労働時間をもっと収益に直結し、より顧客ニーズの高いサービスに振りわけることで労働生産性を一気に押し上げることができます。

たとえば、青森市の自動車整備販売業では、業界では慣例化している車検や新車の納車時に客の自宅まで車を届ける「納車引き取り(納引〈のうび〉き)」をやめました。
納引きは、取引のある客の車が車検時期を迎えた際、整備工場の従業員が客の自宅を訪ねて引き取り、検査が終わればまた自宅に出向いて納車するサービスです。

同社によれば納引きはこれまで車検の取り扱い全体の半分以上に及んでいた。
従業員が、職場と顧客宅との往復に時間を取られ、本来の業務である整備や営業が後回しになり、1カ月の残業時間は平均約25時間に上っていたという。
そこで同社は納引きの廃止を決め、昨年11月、青森県内の顧客約3万5千人に理解を求める文書を小野大介社長名で発送。納引きする車を約2%にまで減らしたところ、今年1~3月の月平均残業時間はそれまでの5分の1に当たる約5時間に収まった。残業代も1人あたり約4万円から約8千円に下がったが、差額分は会社の収益を加味して従業員に支払うことで、意欲をそがないよう配慮した。車を持ち込んだ客には代車を貸し出しているという。
同社の小寺秀樹専務取締役は「客離れもほとんどなく、売り上げは維持している。思い切った改革をしなければ従業員のワーク・ライフ・バランスは改善できない」と話す。
自動車業界に詳しい日本政策投資銀行東海支店の塙賢治次長は「納引きは多くの販売店で行われているが、やや過剰なサービスと言え、客がそこまで求めていない可能性を考えると、やめることは一つの選択肢。中長期的に見て客が離れないのであれば、他の会社にも広がるかもしれない」と指摘している。
朝日新聞Digital2018年4月23日から引用

とはいえ、「やめる」を決断することは、やることよりも多くのエネルギーを必要とします。
現場がやめることを提案することはできません。なぜなら「おまえらサボりたいのか?」と一喝されて終わるからです。
業界の常識となっている「やるべきこと」を、自社だけがやめるとお客さんはどう思うだろう?お客さんが離れてしまったらどうしよう?
こうした不安と向き合い、自社の本質的なサービスは何かを見きわめて、「やめる」決断ができるのは中小企業では経営者しかいません。

コメントを残す